日本人は、良いと聞くと何でも取り入れようとする傾向が強い民族ですが、日本人には日本人のための病気予防法があるのです。
同じ人間でも外見や言語が違うように、性別、年齢、人種等によって「体質」も異なります。
そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。
欧米人と同じ健康法を日本人が取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。
今回は、奥田昌子氏著書『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』より見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を深掘りしていきます。
★ 日本人のこんな健康法には意味がない
★日本人に合わない健康法
1.筋トレ
2.オリーブオイル
3.牛乳
4.赤ワイン
★ まとめ

「ヨーグルトで腸をきれいに」「牛乳でカルシウムをしっかり補給」「心臓病予防に赤ワインを飲みましょう」「運動して筋肉をつけ、脂肪を燃やしましょう」「酵素が不足しています」「美肌の決め手はコラーゲン」……。
いつまでも健康で若々しくありたいという願いは誰にでもあるものの、そこに直接訴えてくる様々な健康法が、雨後の筍のように次々と登場しています。
「なんだか体によさそう…」と、もっともらしい説明を見て、店頭でつい買ってしまったという方もいるでしょう。
しかし、ひとつの食品や習慣に本当に健康効果があるかどうか判断するのは難しいものです。
長年ジョギングを続けている高齢者が元気いっぱいだとしても、寿命が延びたのはジョギングのおかげだったとは限りません。
もともと健康で体力がある方だったから運動を続けてこられたという可能性もあります。
健康効果を医学的に証明するには、数万人規模の参加者を集め、長期にわたって厳密に観察し、その結果を判定する必要があります。
しかし現実には、少数の参加者を対象に、ごく短期間おこなった簡単な調査結果をもとに健康効果をうたったり、データの一部を都合よく切り取ってセンセーショナルに報じたりする例があとをたちません。
それどころか、例えば、酵素の摂取をすすめるドリンクがもてはやされていますが、酵素は体内で不足するようなものではありませんし、美肌になるためにコラーゲンをせっせと摂取しても、小腸でアミノ酸に分解されるので、そのままの形で皮膚のコラーゲンに変わることは期待できないのです。
そして健康法にも人種差の問題があり、日本人は欧米で流行している健康法をメディアが紹介するとすぐにとりいれたりしますが、異なる遺伝子と異なる環境要因のもとで生きてきた日本人と欧米人の体質は、当然ながら多くの点で異なります。
なので、欧米人に有効な健康法が日本人にも効果があるとは限らず、それどころか有害となることすらあるのです。
では、日本人と欧米人の体質の違いに注意したい健康法と呼ばれているものはどんなものがあるのかを、2回に分けて合計8つご紹介します。


無酸素運動は、大きな負荷をかけて瞬間的に力を入れるダンベル体操やスクワット、腕立て伏せなどの運動を繰りかえすトレーニングで、筋肉がつくと基礎代謝量が増えることがわかっています。
基礎代謝とは、心も体も安静にしているときに消費する必要最小限のエネルギーのことですが、無酸素運動をしっかりおこなうと、その後、約48時間にわたって基礎代謝が高い状態が続くことから、「筋力トレーニングを続けるとやせ体質になれる!」と言われるようになりました。
しかし、問題は日本人は欧米人と違って簡単に筋肉がつかないことです。
人の筋肉は筋線維という細い線維が集まってできています。
この筋線維に赤と白の2種類があると聞いたことがある方もおられると思います。
赤い筋線維は「赤筋」または「遅筋」といい、ゆっくりと長い時間にわたって働くことができ、そして白い筋線維は「白筋」または「速筋」と呼ばれ、瞬間的に大きな力を発揮できるのが特徴です。
赤筋と白筋がはっきりわかる代表的な生き物が、魚です。
赤身の魚の代表がマグロで、筋肉の大部分が赤筋でできています。
そのおかげでマグロは広大な太平洋を回遊しながら成長を続けることができます。
それに対して白身の魚の代表がヒラメです。
ふだんは海底でじっと横たわっていますが、獲物となる小魚を見つけると、すばやく追いかけてつかまえます。
人間の筋肉は赤筋と白筋がいろいろな割合で混じりあっているので、魚と違って、肉眼で赤か白か見分けることはできません。
赤白どちらの筋線維が多いかは個人差もあるものの、それ以上に大きいのが人種による違いです。
たとえば白筋の合成に関連する遺伝子に変異があると、白筋を作りにくくなります。
白筋の合成が少ない人はアフリカ系では3~10%しかいませんが、欧米白人は20%、アジア系では30%以上にのぼります。
この結果、人種ごとに平均すると、アフリカ系の人が筋肉全体の約70%が白筋であるのに対し、欧米白人は50~60%が白筋、日本人を含む黄色人種は逆に70%が赤筋と言われ、アフリカ系の人がオリンピックの短距離走で活躍するのはこのためと考えられています。
ただし、一口にアフリカと言っても広大で、暮らす人の体質もさまざまです。
同じアフリカ系でも、エチオピア、ケニアなどの東アフリカは、白筋ができにくい遺伝子変異を持つ人が40%を占めるというデータがあるそうです。
白筋が弱い分、赤筋が発達していることが、東アフリカ勢のマラソンの強さを支えている可能性があります。
この赤筋と白筋の割合はトレーニングによってある程度変化しますが、大きく変わることはありません。
鍛えることで太くなるのは大部分が白筋なので、日本人が筋肉をつけようと思ったら、もともと少ない白筋を集中的に鍛えることになります。
これは効率が悪いうえに、苦労して筋肉を1kg増やしても基礎代謝量の増加は1日あたりせいぜい20kcal、わずかキャラメル1粒分のカロリーにしかなりません。
これによる体重の減少は年に1~2kgとされています。
体力があって、プロなみのトレーニングを続けられる人であっても、筋力トレーニングだけで基礎代謝を十分高めるのは難しいと思われます。
そして、基礎代謝には意外な側面があります。
じつは筋肉だけでなく脂肪組織もエネルギーを消費しているので、脂肪が1kg減ると基礎代謝量が1日あたり5kcal下がります。
つまり、激しいトレーニングを通じて筋肉を1kg増やし、脂肪を2kg減らしたとすると、基礎代謝量の増加は差し引き10kcalになってしまうのです。
これでは話になりません。
筋力をつけるのは大切ですが、筋力トレーニングをしても”やせ体質”にはなれないということです。
やせたければ、カロリーの総摂取量を減らすとともに、日常生活のなかで体をこまめに動かしてカロリー消費を積み重ねるほうが確実です。
2.オリーブオイル

7ヵ国が参加した大規模なコホート研究から、地中海沿岸地域では心臓病による死亡率が低いことが明らかになりました。
この研究をきっかけに、この地域で暮らす人々が伝統的に摂取してきたオリーブ油の健康効果に注目が集まったのです。
オリーブ油には、動脈硬化を促すリノール酸がごく少量しか入っておらず、代わりにオレイン酸が豊富です。
その後おこなわれた研究で、このオレイン酸が心臓病の発生をおさえるらしいとわかり、この説を裏づけるデータが次々に発表されました。
また、オリーブ油には、コレステロールの合成を高めない不飽和脂肪酸が多く含まれています。
脂肪には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がさまざまな割合で入っており、オリーブ油やサフラワー(紅花)油などの植物性油は不飽和脂肪酸が90%近くを占めます。
マーガリンは77%、バターは逆にコレステロールの合成を高める飽和脂肪酸が70%含まれているため、オリーブ油がヘルシーというイメージが生まれ、いまやダイエットや便秘解消に効くとしてオリーブ油を飲むようすすめる人がいるほどです。
しかしながら、これらの成分も、すでに体内にある悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪を減らすほどの効果はありません。
また、いくらオリーブ油でも、油は脂肪そのものですので、大量に使えばかえって心臓病の発症率が上がります。
オリーブ油であろうが、ゴマ油であろうが、大豆油、コーン油、アマニ油、なんであれ、油はすべて大さじ1杯で約110kcalあります。
日本人は欧米人とくらべて内臓脂肪がつきやすいので、脂肪を摂取すれば、すぐ体について、血糖値が上がり、血圧が上がり、動脈硬化が進み、心臓病も増えるでしょう。
オリーブ油の健康効果を示す文献はいくつも出ていますが、摂取すればするほど良いわけではないので注意が必要です。
動脈硬化を防ぐには油そのものの使用をひかえるのが第一ですし、さらに言うと、オレイン酸は肝臓で合成できるので、意識して摂取しなくても健康がそこなわれることはありません。
そもそも、地中海沿岸地域の食事に注目が集まるきっかけになった論文は、心臓病の発症率が低い国として日本と地中海諸国をあげていました。
研究者らは論文の中で、「日本は(心筋梗塞などによる)冠動脈死が少なすぎて、患者の発症年齢、コレステロール値、血圧、喫煙歴について評価することができなかった」と述べています。
しかし、和食は一般的な欧米の食事とまったく異なることから参考にするのが難しいため、欧米では主として地中海食についての研究が進んだという経緯があります。
なので、日本人が心臓病を防ぐために、わざわざ地中海食を取り入れるのは見当はずれということなのです。
3.牛乳

骨粗鬆症を原因とする高齢者の骨折は、長期臥床、いわゆる寝たきりを招くことから、骨を強くするためにカルシウムを十分摂取すべきと考えられています。
しかし、骨粗鬆症の原因はカルシウム不足だけではありません。
じつは、骨粗鬆症は遺伝的素因が大きく、カルシウムとビタミンDの作用、女性ホルモンの作用、骨の合成、動脈硬化などに関連する数多くの遺伝子が、骨粗鬆症の発生と関連することがわかっています。
これらの遺伝子に変異が起きると骨粗鬆症の発症率が上がり、最大で80%の確率で骨粗鬆症になると推定されています。
そしてカルシウムの効果についても、世の中の常識が正しいとは必ずしも言えないようです。
日本人のカルシウム摂取量は米国人の約半分ですが、骨粗鬆症の発症率は米国白人のほうが2倍高いのです。
手足の骨を骨折する人の割合で見ても、日本人を含むアジア人は、欧米白人の2分の1~3分の2であることが明らかになっています。
このうち、寝たきりの原因で非常に多くみられる、足のつけ根部分で骨が折れる大腿骨頸部骨折は、骨が弱くなった高齢者が転倒することで起こります。
この大腿骨頸部骨折の発生率と、カルシウムの摂取量を国・地域ごとに比較したところ、アジア代表として入っている香港、シンガポールに比べて、米国、ニュージーランド、スウェーデンといった欧米の国々の方が、1日あたりのカルシウム摂取量が多いのにもかかわらず、大腿骨頸部骨折を起こす人の割合が高い傾向が見られたのです。
さらに2015年には、カルシウム摂取と骨折しやすさの関連について調べた46件の研究を総合的に分析した論文が公表され、食事からのカルシウムの摂取量と骨折の発生率には関連がないと結論づけています。
欧米でおこなわれる研究は、カルシウムを乳製品もしくはサプリメントから摂取することを前提にしていますが、日本は事情が異なります。
日本人は欧米人と違って、海藻と緑黄色野菜、大豆や小魚などからカルシウムを取ってきました。
また、日本で実施された大規模なコホート研究からは、大豆と大豆製品に含まれるイソフラボンという成分が、骨からのカルシウムの流出をおさえることが示されています。
日本で骨粗鬆症が少ない背景には、遺伝的素因に加えて食生活の違いがあるのかもしれません。
牛乳に関しては乳糖不耐症の問題もあります。
牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする人がいますが、これは、牛乳に含まれる乳糖という成分を分解できないことで起こります。
この現象は哺乳類で広く認められますが、不思議なことに、人間では人種差があるのです。
日本人を含む大部分の黄色人種とアフリカ系、そして白人でも地中海沿岸地域の人々は7~9割が乳糖不耐症とされているのに対し、北欧や西欧出身の白人は例外で、乳糖不耐症は1割強しかいません。
牛乳を飲む習慣は欧米から日本に伝わりましたが、こうして見てみると、日本人の体質に牛乳が合っているかは疑問なのです。
さらに、日本人男性4万3000人を対象に実施された調査からは、乳製品の摂取量が増えるほど前立腺がんの発症率が上がるという結果が得られました。
日本人はカルシウム源として牛乳にこだわる必要はなさそうです。
4.赤ワイン

以前、赤ワインが動脈硬化を防ぐと話題になりました。
フランス人が肉やバターなど動物性脂肪を多く取っているのに、狭心症や心筋梗塞などの心臓病による死亡率が欧州で一番低いのは、赤ワインに含まれるポリフェノールという物質が悪玉LDLの酸化をさまたげ、動脈硬化を起きにくくするからだというのです。
これを聞いて、日本でも、ちょっとした赤ワインブームが起こりました。
じつは、日本は心臓病の発症率が世界で最も低い国の一つで、死亡率もフランスより下まわっています。
なので、心臓病の予防を目的にわざわざ赤ワインを飲むのは、「隣の芝生は青い」そのものです。
さらに言えば、ポリフェノールは赤ワインにだけ含まれているわけではありません。
果物で言うと、ブドウよりブルーベリー、スモモ、イチゴに多く含まれ、コーヒーにも赤ワインと同じくらい入っています。
これ以外にも、ニンジン、ホウレンソウなどの緑黄色野菜、大豆、ゴマ、ニンニク、ナッツ類、海藻、魚、緑茶など、身近な食物にいくらでも入っており、好き嫌いなく食べていればポリフェノールは十分摂取できるはずなのです。
それより問題なのはアルコールの害です。
世界保健機関(WHO)の2014年の統計によると、純粋なアルコールに換算した1人あたりのアルコール消費量は、フランスを1とすると米国が0・77、日本は0・66です。飲酒は肝臓の負担になるだけでなく、アルコールそのものに発がん性があるからか、フランスは肝臓がんの死亡率が他の欧米諸国の2~3倍高く、男性に限ると米国の5倍にのぼります。
しかし、アルコールによる発がんの問題は欧米人より日本人のほうが深刻です。
日本人の約半数はアルコールを肝臓で分解する酵素の働きが生まれつき弱く、こういう人は飲酒によって、食道や大腸、肝臓などのがんを発症しやすいことが知られています。
たとえば、食道と、のど(咽頭、喉頭)のがんを合わせると、日本酒にして1日1・5合以上飲む人は、まったく飲まない人とくらべて発症率が8倍になり、1日2合以上飲む人は50倍以上高くなります。
日本酒1合は、ビールなら中びん1本、焼酎なら0・6合、ワイン4分の1本、缶チューハイ1・5缶に相当します。
これに対して、欧米白人には、この酵素の働きが弱い人はいません。
日本人はアルコールに弱い民族なのです。

まとめ
耳に聞こえてくる健康に良いというフレーズだけで鵜のみにせずに、自分に合う健康法をしっかりと探すことが大切なようです。
次回も、引き続き日本人の身体を考えた健康法について後半の4つをご紹介していきます。